高精度測位デバイスを軸に経営視点から広げるモノづくりの可能性
未来は無限大!私のキャリア
レフィクシア株式会社 代表取締役/東京科学大学 特任助教(当時) 高安基大

土木や災害の現場、インフラ分野では欠かせない測位技術。博士課程修了後、単身起業した高安基大さんは、位置情報の重要性に着目しGPS事業に乗り出しました。高精度な位置情報を手軽に測定できるハードデバイスから情報を管理するソフトウェアまで一貫して提供する独自のサービスモデルを確立。柔軟な視座で会社経営と研究の可能性を広げる高安さんに、電子工作に引かれたきっかけや起業に至る経緯、今後の展望について伺いました。
モノづくりに魅せられて電子工作への探求心から東工大へ
電気回路の面白さに目覚めたきっかけは、幼少期に祖父からもらった電子工作キット。小学生の頃は科学実験クラブに所属し、毎日ハンダごてを握って電子工作に明け暮れる日々でした。その後、茨城高専の電気電子システム工学科を経て、東京工業大学大学院総合理工学研究科に入学。東工大を選んだのは、益一哉先生(元東工大学長)の研究室に入りたかったからです。携帯電話などに使われる集積回路やセンサ素子を設計したいという思いから、全国的に数少ない集積回路専門の研究室を探していたところ、益研究室に引かれ進学を決めました。
研究室では、MEMS加速度センサーの研究を行っていました。MEMS加速度センサーとは、振動を測定するセンサーのことです。より微小な振動を検知するためには、ノイズを可能な限り減らす必要があり、除去できるノイズの微細さは、通常、センサーの大きさに比例します。その条件下で、いかにより小型で低ノイズ高分解能なセンサーを作れるかが私の研究テーマでした。具体的には、重量が大きいほど安定するMEMSデバイスの素材をシリコンから金メッキに変えることで密度を高めて小型化したり、よりノイズに強い集積回路を作ったりといった検討を重ねました。
学びの機会をフル活用し起業への道筋を整えた修士時代
起業を考え始めたのは修士課程の頃。当時参加していた学生ベンチャーがきっかけでした。そこで製作したロボットがメディアに取り上げられ、海外の王族に販売する機会を得るなど、貴重な経験をしました。それから、自分で会社を作れば普段はできないような面白いこともできるのではないかと考えるようになりました。
また、修士課程の頃は、益研究室と並行して、グローバルリーダー教育院(AGL)の修士・博士一貫プログラムにも所属していました。専門分野に限らない、国際的・実践的な視点を持って学べるこのプログラムを経験し、会社を作るには研究室で学ぶ技術だけでなく英語や経営の勉強が必要だと気づきました。そこで、博士後期課程に進む前に、インターンシップのため1年間海外に渡ることを決意。修士課程時代に大学の留学プログラムを利用して訪れたベルギーのEU議会に、今度は単身でアポイントを取りました。1年間のうち、半年間は英語を身に付けるためにEU議会で働き、もう半年間は経営戦略コンサルティングファームで経営について学びました。
修士課程時代の研究室、AGL、インターンシップで印象的だったのは、曖昧性を許さず数値できちんと詰める考え方や、ロジカルシンキング、仕事に対する厳しい姿勢です。高専で勉強していた頃とは違う厳しさを目の当たりにし、苦労もありましたが、現在のキャリアを築く上でとても重要な期間でした。
より良いモノづくりを目指したどり着いた自社一貫モデル
博士後期課程修了後はすぐに会社を立ち上げるつもりでしたが、恩師に頼まれ、1年間は茨城高専で電気電子系の助教を勤めました。その後、ソフトウェア開発の受託事業から起業し、太陽光3D設計事業を足掛かりにGPS測位事業を展開。現在は、スマートフォンに装着して手軽に扱える高精度GPS測位デバイス「LRTK」を主軸とする測位事業がメインとなっています。
レフィクシア株式会社の特徴は、1cm単位の測位精度で緯度・経度・標高を測定できるハードデバイスの開発・実装だけでなく、それらの位置情報を確認するためのアプリケーションの開発、クラウドサービスの提供まで自社内で全て完結しているところです。特にハードデバイスはGPSアンテナから制御基板、ケースの設計と開発製造を自社のオフィス内で一貫して行っているため、時代や現場のニーズに柔軟に対応したデバイス開発が可能です。
これらのサービスは、主に土木の現場などで重宝されています。家を建てる際の測量や、最近では能登半島地震によって損壊したインフラ・設備の記録にも使用されました。高精度で測量するだけでなく、ソフトウェアに位置情報を蓄積できる利点を生かし、インフラ設備の保守点検作業などにも広く利用されています。
東工大で広げた視座を生かして経営と研究の両立で探る可能性
現在は会社経営の傍ら、東京科学大学の特任助教として、Beyond 5Gという高周波無線の研究にも取り組んでいます。この研究では、5Gよりさらに高周波帯の周波数を用いて1秒あたりに伝達できる信号の量を増やし、通信容量を増大させることで、例えば無線でのサーバー間大容量通信の実現などを目指しています。課題は、高周波になるほど、進む方向が限定され、遮蔽物に吸収されやすい特性が顕著に表れること。その特性を抑えるため、透過性に優れたアンテナカバーや高周波線部材について研究をしています。
経営と研究の両立はもちろん大変ですが、一方の技術や知識がもう一方に生きてくることもありますし、どちらかだけでは出会えなかった多分野の研究者の方と交流できるという面白さがあります。現在レフィクシア株式会社で手掛けている事業は、東工大時代の研究内容と直結しているわけではありません。しかし、ベンチャー企業ながらリスクが高いハードウェア産業に乗り出せたのは、電気系や集積回路に関する知識がバックグラウンドとしてあったからでした。
東工大には、先輩方が築き上げてきたネームバリューと最先端の技術、さまざまな教育プログラムを享受できる機会があります。起業後、東工大の環境の良さや経験機会の豊富さは大学の魅力の一つだったと実感しました。2024年10月には東京科学大学として生まれ変わり、医療系とのつながりができたことで、理工学系の基礎研究で終わっていたものが医療分野で実用途に発展するなど、さらなる学びや研究の機会拡大を期待しています。
Next step!
「位置」をキーワードに、持続可能な経営を目指す
位置情報を測定するハードウェアデバイスへ自社開発のアンテナを搭載し、自社にしか作れない端末を実現したレフィクシア株式会社。高い技術力で安定した収益モデルを作り、よりハードウェアの開発に尽力できる体制を確立しました。強みであるハードとソフトの融合型サービスモデルを軸に、より手軽で安定性の高いLRTKデバイスへの改良、広い範囲を一瞬で測量できるデバイスや無人でも測量できる自動走行型のロボットなどの新しいハードウェア開発も視野に入れています。今後も、これまで扱ってきた「位置」に関する情報をメインに据え、より良いモノづくりができる会社を目指しさらなる事業展開を構想しています。

プロフィール
高安基大(Motohiro Takayasu)

2018年、東京工業大学大学院総合理工学研究科物理電子システム創造専攻博士後期課程修了後、母校である茨城工業高等専門学校にて助教として勤務。その後、2019年にレフィクシア株式会社を創業し、スマートフォンに装着して使用できる高精度な位置情報デバイス「LRTK」を開発。2023年には東工大発ベンチャーの称号を受ける。同年、東京工業大学の特任助教に就任。
- 2010年
- 茨城工業高等専門学校 電気電子システム工学科卒業。
- 2012年
- 東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 物理電子システム創造専攻 修士課程入学。益研究室にてMEMS加速度センサーの研究に打ち込む傍ら、グローバルリーダー教育院(AGL)の修士・博士一貫プログラム2期生として活動。
- 2014年
- 修士課程修了後、単身ベルギーへ。EU議会と経営戦略コンサルティングファームでのインターンシップを経験。
- 2015年
- 東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 物理電子システム創造専攻 博士後期課程で高分解能MEMS加速度センサーの研究を開始。
- 2018年
- 博士後期課程修了後、母校である茨城工業高等専門学校にて電気電子系の助教として勤務。
- 2019年
- レフィクシア株式会社を創業。茨城工業高等専門学校には特命助教として在籍。
- 2023年
- 東京工業大学の特任助教に就任。Beyond 5G高周波無線の研究を手伝いつつ、レフィクシア株式会社代表取締役として会社経営を行う。


関連リンク
取材日:2024年11月15日/レフィクシア株式会社オフィスにて