手のひらにのる発電所:高温でも安全に使える小型燃料電池への挑戦

2026年3月31日 公開

600℃以上の高温を閉じ込めるポータブル電源の実現

どんな研究?

スマートフォンやノートパソコン、ドローンなど、私たちの身の回りの機器は電池で動いています。なかでも、現在主流のリチウムイオン電池はとても優れています。しかし、電気を貯められる量は材料の性質によってほぼ決まっており、同じ大きさのまま大幅に増やすことは簡単ではありません。そのため、「もっと長く動かしたい」という期待に応えるには、新しいしくみが必要になります。

そこで注目されてきたのが、燃料電池です。燃料電池は、あらかじめ電気を貯めておくのではなく、水素などの燃料と空気中の酸素を反応させ、その場で電気をつくる装置です。燃料を補給すれば発電を続けられるという特長があります。

画像提供:山田哲也助教

こうした背景でのもと、注目されてきたのが固体酸化物燃料電池(SOFC)です。SOFCは、600℃以上の高温で動きます。高温にすることで電気を生み出す反応が活発になり、水素だけでなく、身近なアルコールなどの燃料からも効率よく電気を生み出すことができます。しかしその一方で、十分に発電できる高温になるまで時間がかかり、装置も大きくなりがちでした。高温で動く発電装置を小さく安全に使うことは、長年の課題でした。

こうした背景のもと、東京科学大学(Science Tokyo)の山田哲也(やまだ・てつや)助教らの研究チームは、この難題に正面から取り組みました。従来のSOFCセルに、熱をすばやく立ち上げる構造や高い断熱性をもつ設計を組み合わせ、装置全体を一つのシステムとして最適化することで、5分で起動する小型高温電源の開発に成功しました。

ここが重要

最大の壁は、「高温」「安全性」「すばやい起動」の3つを同時にかなえることでした。内部は600℃を超える一方で、外側は手で触れられる温度に保つ必要があります。

研究チームは、材料をむやみに強くするのではなく、熱によるひずみをうまく受け流す構造を考えました。片側だけを固定し、反対側がしなる「片持ち梁(かたもちばり)」と呼ばれる構造を取り入れて熱によるひずみを分散させ、高温でもひび割れを防げることを初めて実証しました。さらに、断熱材を何層にも重ねる「多層断熱」のしくみを取り入れ、内部が600℃以上でも外側は安全な温度に保てるようにしました。また、発電にはすでに実用化されている平板型の燃料電池セルをそのまま搭載できるよう設計しました。これにより、既存のSOFC技術を活用した小型発電システムとして展開できる可能性を示しました。

こうした工夫の結果、約5分で起動し、実際にモーターを動かすことに成功しました。さらに、この装置は水素などを燃料として使いますが、万一破損しても温度が急激に下がり、引火しにくくなることも確認できました。小型でありながら、安全性にも配慮された高温電源を実証した点が大きな成果です。

今後の展望

この技術が進めば、同じ大きさや重さでも、いまの電池よりずっと安全に長く機器を動かせるようになると期待されています。ドローンやロボット、AI機器の稼働時間を延ばすことができ、燃料を補給すればすぐに再び使える電源として活躍する可能性があります。

また、既存のSOFC技術を活用できるため、将来的な実用化や普及にも道が開かれています。電力インフラのない場所での利用など、新しい電源のかたちを広げていくことが期待されています。

研究者のひとこと

私たちは、高温の化学反応を手のひらサイズで利用する「小さな発電所」の実現を目指しています。この発電所は、既存の電池よりも長時間電気を生み出すことができ、送電網のない場所でも次世代のドローンやロボットなどを動かす電源になる可能性があります。
(山田哲也:東京科学大学 総合研究院 未来産業技術研究所 助教)

山田哲也助教

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