どんな研究?
中南米の熱帯林にすむマイコドリの仲間は、鮮やかな羽色と、高速の宙返りやジャンプ、羽ばたきなどを組み合わせた華麗な求愛ダンスで知られています。オスたちは競うように技を披露し、それを見たメスが交尾相手を選びます。その一方で、巣作りや抱卵、ヒナへの餌やりまで、子育てのすべてをメスが担います。
では、マイコドリはなぜ、これほど求愛に特化した鳥へと進化したのでしょうか。
その謎を解く鍵として、以前から注目されてきたのが食べ物です。マイコドリは多くの近縁種とは異なり、果実を主な食物としています。栄養豊富な果実を利用できるようになったことが、メスだけでの子育てや、オスの激しい求愛行動を可能にしたのではないかという説は、半世紀以上前から提唱されていました。
しかし、果実を食べることと、華麗に踊ることの間に、どのような進化の道筋があるのかは謎のままでした。食生活の変化と繁殖方法、派手な羽色やダンスの進化が、遺伝子や体の機能の変化とどのようにつながっているのかは分かっていなかったのです。
ここが重要
東京科学大学(Science Tokyo)の戸田安香(とだ・やすか)准教授、イースト・カロライナ大学のクリストファー・N・バラクリシュナン(Christopher N. Balakrishnan)博士、マックス・プランク生物知能研究所のモード・W・ボールドウィン(Maude W. Baldwin)博士を中心とする研究チームは、複数のマイコドリ類のゲノム解析に加え、味覚受容体や消化酵素の働きを実験で調べ、その進化を遺伝子と体の機能の両面からさかのぼりました。
その結果、マイコドリの華やかな姿が登場するより前に、果実を食べる体への変化がまず起きていたことが見えてきました。果実食への移行に伴って、果実に含まれる有毒な成分を活性化しにくくするよう消化酵素の働きが低下していました。
加えて、マイコドリの祖先では、甘味を感じる仕組みにも意外な変化が起きていました。鳥類は、哺乳類が糖を感じるために使う甘味受容体を進化の過程で失っています。ところがマイコドリは、本来はアミノ酸を感じるうま味受容体を作り替えることで、糖を感じる能力を独自に獲得していたのです。
さらに系統を比較すると、こうした果実食への適応が早い段階で起こり、その後にオスが育児に参加しない繁殖システムが広がり、さらに後になって派手な羽色や複雑な求愛行動が発達したという順序が見えてきました。華麗な羽色やダンスの進化をたどると、その手前には「何を食べ、どう味わい、どう消化するか」という体の変化があったのです。
今後の展望
今回の研究は、食べ物の変化が、味覚や消化だけにとどまらず、子育てのあり方や求愛行動といった動物の生き方の進化にもつながりうることを示しています。
今後、ほかの果実食の鳥類でも同じような進化の順序が見つかるのかを調べることで、環境や食生活の変化をきっかけとして、動物の姿や行動がどのように多様化していくのかが、さらに明らかになると期待されます。
研究者のひとこと
マイコドリというと、色鮮やかな羽やユニークな求愛ダンスに目が向きます。しかし、その進化をたどると、「何を食べるか」という食性の変化と、それに伴う味覚や消化機能の進化が見えてきました。生き物にとって「食べること」がいかに重要かを改めて感じさせてくれる研究になったと思います。
(戸田安香:東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授)
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