噛む力が将来の健康を守る

2026年3月27日 公開

「口の衰え」が体重減少を引き起こす仕組みを6年追跡で解明

どんな研究?

カリッとしたせんべいが食べにくい、パンがのどにひっかかる、口が乾いて話しづらい――そんな小さな変化が、実は全身の健康に関わっているかもしれません。

高齢者では、低栄養による体重減少が心身の衰えにつながり、介護の必要性や死亡リスクを高めることが知られていました。また、歯の数が少ないことや、噛みにくさ、飲み込みにくさ、口の乾きといった個別の問題が体重減少と関係することも報告されてきました。

こうした口の機能の全体的な衰えは「オーラルフレイル」と呼ばれます。しかし、それが体重減少にどう影響するのかは十分にわかっていませんでした。これまでの研究では、歯や噛む力などを別々に扱っていたり、お互いの関係性を重視していなかったため、全体像が見えにくかったのです。

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そこで東京科学大学(Science Tokyo)の相田潤(あいだ・じゅん)教授らの研究チームは、「歯の数」「噛む力」「飲み込む力」「口の乾き」「発音のしやすさ」という5つの要素をまとめて捉える新しい分析手法をつくりました。そして、自立して生活する日本人高齢者を6年間追跡し、体重の変化との関係を詳しく調べました。

ここが重要

研究チームにとって最も難しかったのは、「口の衰え」という目に見えない状態をどう捉えるかでした。5つの項目を単純に足し合わせたり、お互いに関係がないと考えたりするのでは、本当の関係は見えてきません。

そこで研究チームは、要素同士のつながりまで同時に分析できる「構造方程式モデリング」という手法を導入しました。その結果、オーラルフレイルがあると、6年後に10%以上の体重減少が起こるリスクが高まることがわかりました。

さらに、歯が少ないことが噛みにくさや発音のしづらさにつながるなど、要素が連鎖していることも示されました。中でも特に影響が大きい要素は「噛みにくさ」でした。噛む力の低下が、オーラルフレイルの核となっていることがわかりました。

今後の展望

オーラルフレイルは、早い段階であれば改善が可能です。合わなくなった入れ歯を作り直したり、失った歯を補ったりする治療、舌や頬の筋肉を鍛える体操、飲み込む力を高めるトレーニングなどによって、低栄養や体重減少を防げる可能性があります。

本研究は、健診への口腔機能チェックの導入や、医科と歯科が連携した高齢者ケアの重要性を後押しします。口の健康を守ることが、健康寿命を延ばすことにつながります。

研究者のひとこと

今回の研究は、歯が少ないと噛みにくくなったり、話しにくくなることなどが体重減少につながるという、ある意味当たり前のことをデータで実証しました。年をとれば食べる量が減るのは当然」と考えられがちです。しかし、その背後に「噛めない」という問題が隠れているかもしれません。口の小さなサインに早く気づくことが、将来の自分を守る第一歩になります。
(相田潤:東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授)

相田潤教授

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