生命の材料である4種類のヌクレオチドをつくる万能酵素を発見

2026年4月14日 公開

細菌から見つかった酵素「ユニバーサルPPK2」がRNA合成を大幅に低コスト化・簡素化する可能性

どんな研究?

細胞の中では、生命の設計図であるDNAや、その情報をもとに細胞の働きを支えるRNAが絶えずつくられています。DNAやRNAは「ヌクレオチド」と呼ばれる小さな分子がつながってできています。RNAをつくるヌクレオチドには4種類あり、これらは同時に、生命のエネルギー源でもあります。

これらのヌクレオチドを、エネルギー源となる形に変換するときに働くのが「ポリリン酸キナーゼ(PPK)」という酵素です。ポリリン酸は、リン酸という同じ分子が鎖のようにつながった、自然界に広く存在する物質です。生命のエネルギー源ともなるヌクレオチドと密接に関係していることから、生命がどのようにエネルギーを利用する仕組みを発展させてきたのかを考えるうえでも注目されてきました。

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しかし、これまで知られていたPPKには一つの特徴がありました。生成できるヌクレオチドの種類が限られているのです。RNAを作るには4種類のヌクレオチドが必要ですが、従来のPPKはそれら4種類をすべて効率的にくれる酵素はまだ見つかっていませんでした。

東京科学大学(Science Tokyo)の松浦友亮(まつうら・ともあき)教授とリアム・ロンゴ(Liam Longo)特任准教授らの研究チームは、「どんなヌクレオチドでも作ることができる酵素はあるのか?」という問いを手がかりに、さまざまな微生物の酵素を調べました。すると、中国沿岸の堆積物中で発見された細菌 Mangrovibacterium marinum の中から、これまでにない働きをもつ酵素を発見しました。この酵素は、RNA合成でよく使われる8種類の原料、具体的には4つのヌクレオチド一リン酸、4つのヌクレオチド二リン酸のどれを使っても、RNAを構成する4種類のヌクレオチド三リン酸を高い効率で作り出せます。(※ヌクレオチドにはリン酸が1つ・2つ・3つとついた種類があり、リン酸が多いほどエネルギーを多く持っています。)研究者たちはこの酵素がもつ万能性を記すために「ユニバーサルPPK2」と名付けました。

ここが重要

実験によると、ユニバーサルPPK2は8種類の原料の約70%をヌクレオチド三リン酸へと変えることができました。さらに温度を55℃にすると、ヌクレオチドにリン酸が30個もつながった分子を作ることも確認されました。これまでは9個つながるのが精いっぱいだったことから、世界最長記録を大きく超えたことになります。

研究チームは、なぜこの酵素がこれほど多くの種類のヌクレオチドにリン酸を付与することができるのかを詳しく調べました。その結果、まだ未解明な点が多いですが、酵素の立体的な形のもろさが、さまざまな分子を受け入れる柔軟さを生み出していることが推測されました。

そしてもう一つの重要な成果は、1つの試験管の中で、このユニバーサルPPK2が作ったヌクレオチドを使い、RNAを合成する反応を実際に動かしたことです。

これまでは、酵素を用いて4種類のヌクレオチド三リン酸をつくる場合、さまざまな材料物質をあちこちから取り揃え、6種類の酵素が必要でした。それに対して研究チームは、1つの容器に1種類の酵素を入れるだけで、4種類のヌクレオチド三リン酸がつくられ、されにはこれからRNAを生成できることを示しました。

今後の展望

この酵素があれば、DNAやRNAの材料を、より簡単なプロセスで組み立てられる可能性があります。RNA医薬やワクチンなど、核酸を利用する医療技術への応用も期待されています。

また、ポリリン酸は原始地球にも存在していたと考えられています。そのため今回の発見は、生命がどのようにして複雑な化学反応を発展させてきたのかを考えるうえでも、新しいヒントを与えてくれるかもしれません。

生命の仕組みを理解する基礎研究とバイオテクノロジーへの応用、その両方につながる発見として、今後の研究の広がりが期待されています。

研究者のひとこと

古代の生命は、現代の生命よりもゲノムサイズも小さく、少数の酵素で生存していたはずです。従って、古代の生命は、少数の酵素で沢山の化学反応をコントロールしていたと考えられます。

本研究で発見した酵素は、古代の酵素の性質を未だに残しているのではないかと考えています。また、面白いことに、古代の酵素の性質が現代のバイオものづくりに繋がる可能性を示せたと考えています。酵素学の基礎研究から、応用まで繋がった研究例でもあり、基礎研究がいかに重要かを示しています。

今後、この酵素の性質を更に調べると共に、類似の古代の性質を持っている酵素を探してみたいと考えています。どのような新たな発見があるか興味は尽きません。

(松浦友亮:東京科学大学 未来社会創成研究院 地球生命研究所 教授)

松浦友亮教授

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