脳の神経伝達を阻害する自己抗体を統合失調症で発見

2025年4月22日 公開

統合失調症の原因解明や新たな治療法開発につながる成果

どんな研究?

統合失調症は、幻覚や妄想、認知機能の障害を特徴とする精神疾患で、約100人に1人が発症する頻度の高い精神疾患です。しかし、発症のメカニズムは多種多様で未だに十分解明されておらず、新しい診断法や治療法の開発が求められています。

大学院医歯学総合研究科 精神行動医科学分野の塩飽裕紀テニュアトラック准教授らの研究チームは、過去に確立した「自己抗体の検出システム」を用いて、統合失調症患者さんの脳内に存在する新たな自己抗体を発見しました。体を守る免疫システムで働く抗体の中で、誤って自分の細胞や組織を攻撃するものを自己抗体と呼びます。

研究チームは、統合失調症患者387名を解析し、約2.1%(8名)に脳の神経細胞の接続部であるシナプスの構成分子NRXN1に対する自己抗体(抗NRXN1自己抗体)を発見しました。抗NRXN1自己抗体が、NRXN1の働きを阻害することで、神経伝達が妨げられ、統合失調症の症状が引き起こされる可能性が示されました。

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ここが重要

今回発見された自己抗体は健康な人からは検出されませんでした。さらに、この抗体が実際にシナプスの結合を阻害することも確認しました。患者から精製した抗体をマウスに投与すると、神経活動の異常、シナプスの減少、認知機能低下などの症状が現れ、抗NRXN1自己抗体が統合失調症の病態形成に関与している可能性が示されました。

今後の展望

統合失調症の患者さんがこの自己抗体を保有しているかを調べることで、統合失調症の診断精度を向上させることができます。さらに、自己抗体を標的とした治療法の開発にも取り組むことで、新たな治療戦略の確立を目指します。

研究者のひとこと

自己免疫が精神疾患に関与する可能性はこれまで十分に注目されてきませんでした。今回の発見が、統合失調症の新たな診断や治療の道を開くことを期待しています。

塩飽裕紀テニュアトラック准教授

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