どんな研究?
電気で物を動かす、と聞くと、多くの人は「くっつく力」を思い浮かべます。プラスとマイナスが引き合い、向かい合ったもの同士がくっつこうとする。その「電気の引っぱり合う力(静電力)」を使って、物を動かすと考えるのが普通でしょう。しかし、この力はあまり強くなく、私たちの身の回りで大きな機械を動かすには向いていませんでした。そのため、実際のモーターでは、別の仕組みが主流になってきました。たとえば、扇風機や電気自動車のモーターは、電気そのものではなく、電気で磁石の性質を生み出し、その力(磁力)を使って回っています。
ところが2017年、電圧をかけるとふつうとは比べものにならないほど強く反応する液体が見つかりました。これが「強誘電性流体」です。この液体を使うと、これまでなら危険なほど高い電圧が必要だった装置を、ずっと低い電圧で動かせることが分かってきました。
(画像提供:西村涼特任教授)
電気によって生み出される力は、実は電圧をかけた向きに「引っぱり合う力」だけではありません。電圧をかけた向きと垂直な方向に働く力、つまり、横に押そうとする横向きの力もあります。しかし、その横向きの力はこれまでの材料ではあまりに小さく、「あっても意味がないもの」として、ほとんど注目されてきませんでした。
ここが重要
この研究でいちばん大きなポイントは、「弱すぎて使えない」と思われてきた電気の横向きの力が、条件しだいで驚くほど大きくなることを、実際に目で見える形で示した点にあります。
東京科学大学(Science Tokyo)の西村涼(にしむら・すずし)特任教授らの研究チームは、強誘電性流体に注目し、この見過ごされてきた力をあらためて確かめました。数ミリの隙間で電極を設置して、その間に強誘電性流体を挟み込んで電圧をかけてみました。すると、液体が横から押されたように、重力に逆らって10センチ近くも持ち上がることが分かりました。同じ条件で、一般的な液体や従来の材料を使っても、このような動きは起きません。強誘電性流体のときだけ、はっきりと現れた現象でした。
さらに面白いのは、この力の強まり方です。普通の材料では、電圧を上げても力はなかなか増えません。しかし強誘電性流体では、電圧を少し上げると、それに素直に応じるように力も大きくなりました。電気の力の「効き方」そのものが、これまでとは違っていたのです。
研究チームは詳しい分析を進め、この力が、電気によって液体の中の分子が向きを揃えて整列し、横向きに押す力を生み出していることを明らかにしました。そして、この仕組みを使えば「回す」こともできるのではないか。そう考えて試作されたのが、磁石も金属の回転子も使わない、新しい原理のモーターです。実験では、そのモーターが実際に回転する様子も確かめられました。
今後の展望
この研究成果は、将来のモーターや駆動装置の考え方を広げるものです。いま広く使われている電磁モーターは、磁石や銅のコイルが欠かせません。しかし今回の原理では、磁石やレアアース金属を使わずに動力を生み出すことができます。資源の限りがある中で、これは大きな強みになります。
また、構造をシンプルにできるのも特徴です。回転する部分を樹脂で作れるため装置を軽くでき、動きも素早くなります。こうした性質は、ロボットや小型機器、精密な動きが求められる装置への応用につながります。とくに磁場を使わないため、磁気ノイズが問題となる医療機器や記録装置の内部での使用や、さらに、非常に高い電圧を必要としないため、安全性の面でも実用に近づくと期待されています。
研究者のひとこと
実験を積み重ねて得られた結論は、モーターの回転子に金属がいらなくなることを意味していました。すぐには信じてもらえないような話でしたが、データを信じて実際にプラスチックだけで回転子を作ってみると確かに回転します(本記事トップの写真)。この力は、実は100年以上も昔に予測されていましたが、これまで誰も肉眼で観察したことがありませんでした。世界初の目撃者になれた喜びは、研究者ならではの醍醐味です。科学の世界は楽しいですよ!
(西村涼:東京科学大学 物質理工学院 材料系 特任教授)
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