セントロメアのひみつ ― 細胞分裂を支えるDNAの新しい折り畳み構造

2025年8月29日 公開

DNAを巻き付けるヒストンの常識がくつがえるCENP-AとH4だけでできた「特別な巻き芯」とは?

どんな研究?

私たちの体の中では、日々たくさんの細胞が分裂し、入れ替わっています。このとき、DNAという「体の設計図」が、細胞分裂で新しい細胞に正しくわけられるように、細胞の中では複雑なプロセスが進行します。

DNAは、とても長い鎖状の物質で、そのままだと細胞に綺麗に収納できません。そのため、ヒストンという「巻き芯」の役割を果たすタンパク質に巻き付いてヌクレオソームと呼ばれる「DNAの基本収納ユニット」を形成し、そのユニットを整然と並べてクロマチンと呼ばれる構造体として、細胞内に収納されるのです。これを染色体とも呼びます。

Image by Shutterstock

染色体の真ん中あたりにはセントロメアと呼ばれる特別な場所、細胞分裂の際に複製された姉妹染色体を正しく2つの細胞に分けるための目印のような非常に大切な場所があります。セントロメアも、ヒストンに巻かれたヌクレオソームで作られていますが、ここで使われているヒストンは特別なものであることが分かっています。通常だとH3というヒストンが使われますが、セントロメアではH3の代わりにCENP-Aが使われていてCENP-Aを目掛けて、姉妹染色体を引きはがすタンパク質が集合するのです。このCENP-Aを含むヌクレオソームがどのような構造でどんな役割を果たすのかを調べる研究は、細胞の中でDNAがどのようにして機能を発現するのか、どのようにして細胞は分裂するのかなど、生命現象の核心に迫る研究でもあるのです。

ここが重要

「巻き芯」の役割を果たすヒストンは、H2A、H2B、H3、H4という4種類のヒストンを2個ずつ使って集合(八量体)を作るのが常識とされてきました。しかし、東京科学大学の野澤佳世(のざわ・かよ)准教授を中心とする研究グループは、CENP-AとH4の2種類だけで、DNAを巻きつけるヌクレオソームのような構造ができることを実験で明らかにしました。しかも、その構造を高解像度で観察した結果、CENP-AとH4だけでも安定した「巻き芯」として機能することがわかりました。

今後の展望

最近、CENP-Aが多すぎたり少なすぎたりすると、細胞分裂がうまくいかなくなって、がんの原因になることもわかってきました。CENP-Aを含む新たなヌクレオソーム様構造の発見は、染色体のしくみを詳しく知り、がんなどの病気のメカニズムを解明する手がかりにもなるかもしれません。

生きた細胞の中にあるヌクレオソームが、ひとつひとつすべて理解されている訳ではありません。これまでの常識が正しい訳ではなく、新たな可能性を示したことで、どのような構造のヌクレオソームが、どこでどのように働いているのかを理解するための研究が進展していくことが期待されます。

研究者のひとこと

ヒストンといえば、4種類のヒストンがそろって初めて機能すると思われてきました。けれど今回、CENP-AとH4という2種類だけでしっかりした構造ができ、さらにセントロメアの機能にも深く関わっていることが分かりました。

私たちの体の中では、見えないところでたくさんのしくみが協力しあって命を支えています。今回の発見は、そうしたしくみの一つを少しだけのぞくことができた例だと思います。これからも、まだ知られていない細胞のふしぎを明らかにしていきたいと思っています。

(野澤佳世:東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授)

野澤佳世准教授

この研究をもっと詳しく知るには

お問い合わせ先

研究支援窓口