高血圧の薬は手術の前後でやめない方がいい?

2025年12月5日 公開

ACE阻害薬やARBを使い続けることで、術後の生存率や回復が改善しうることを発見

どんな研究?

高血圧は、沈黙の病とも呼ばれ、世界で約13億人が悩まされています。放っておくと心臓病や脳卒中など命に関わる病気を引き起こすため、薬での治療が欠かせません。

これまで、手術を受ける高血圧患者に対して、手術の前後に降圧薬を中止すべきなのか、続けてもよいのか、続ける薬の種類によって手術後の経過や結果に差がでるのか、は世界中で議論されてきました。特にアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)といった薬は、手術中の血圧低下を招く恐れがあると考えられ、一部の医師は中止を勧めていました。これまでの研究は少人数のデータに基づくものが多く、薬の組み合わせまで詳しく検討した研究はほとんどありませんでした。

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ここが重要

東京科学大学(Science Tokyo)の萬代新太郎(まんだい・しんたろう)准教授、博士後期課程2年(MD-PhDコース/医学研究者早期育成プログラム)の鈴川礼奈(すずかわ・れな)さんらを中心とする研究チームは、大規模な患者データを解析し、手術を受ける高血圧患者がどの薬を使い、どんな組み合わせが術後の経過に影響するかを調べました。その結果、ACE阻害薬またはARBを手術の前後で続けて使っていた患者は、死亡率や身体機能の低下が少ないことが明らかになりました。

特に注目すべきは、これらの薬の効果が年齢や性別、病気の有無にかかわらず一貫して見られた点です。さらに、整形外科手術や消化器系の手術を受けた患者では、術後の感染症(敗血症)リスクまで下がっていました。従来は、安全のために手術前に薬を中止すべきという意見も多数ありましたが、この結果はそのひとつの通説を大きく揺るがすものでした。

今後の展望

この成果は、手術前後の高血圧患者の薬の管理方法に新しい方向性を示します。ACE阻害薬やARBを中止せずに使い続けることが、手術後の生存率や回復に良い影響を与える可能性があります。

今後は、手術の種類や患者の状態に応じて、どの薬をどのように組み合わせるのが最も効果的かをさらに検証していくことが期待されます。こうした研究が進めば、世界中の手術患者にとってより安全で効果的な「テーラーメイド医療」が進んでいくでしょう。

研究者のひとこと

多くの方が血圧の薬を服用します。しかし手術に臨む場合にどのタイプの薬が予後を良くするか、また薬をやめるべきかどうかは、あまり分かっていませんでした。今回の研究は、その答えを科学的に示した最初の大規模なデータです。高血圧患者の安心につながる新しい治療指針づくりに貢献できればと思います。
(萬代新太郎:東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 腎臓内科学 准教授(テニュアトラック))

薬の種類によって、これほど術後の転帰が変わり得ることは私たちの予想を超えた結果でした。血圧の薬のみならず、普段から服用する内科的な薬やその組み合わせが、外科診療成績をさらに高める可能性を秘めており、さらなる研究で明らかにできればと思います。
(鈴川礼奈:同 大学院生)

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