「動く光」を使ってプラスチックやゴムの材料であるポリマーを効率よく作り出す新技術の開発

2024年12月13日 公開

生成エネルギーを90%節約できる環境にやさしい革新的な技術

どんな研究?

私たちの生活では、プラスチックやゴム、繊維などが欠かせません。これらは、分子量が10,000を超える巨大な高分子(ポリマー)からできています。ポリマーは、モノマーと呼ばれる小さな分子がたくさんつながってできた、大きな分子です。このポリマーを作るには、光を使って化学反応を起こしてモノマーをつなぎ合わせる「光重合」という方法がありますが、この方法では多くの光エネルギーが必要で、環境に負荷がかかることが問題となっています。

今回、総合研究院の宍戸厚教授らの研究グループは、「動く光」を利用して光重合を格段に少ないエネルギーで行える新しい方法を発見しました。通常の光重合では、全体に光を当てることでモノマーが結びつきポリマーが生成されますが、今回の研究では、スリット(細い隙間)を通した光をゆっくりと動かしながらあてる方法を採用しました。これにより、生成されるポリマーの量が1.5–20倍も増え、使用する光エネルギーを90%も削減することができたのです。

ここが重要

光重合では、モノマー同士を結びつける働きをもつ分子(ラジカル)が、光をあてることによって発生し、ポリマーの生成を始めます。しかし、光をあて続けるとラジカル同士がぶつかり合って反応が止まってしまうことが多く、生成効率が悪くなります。

スリット状の光を動かす新しい方法では、光が当たる部分でだけポリマーが生成されるため、光が当たらない部分とのポリマーの濃度の差が生じます。すると、この濃度の差を埋めようと分子が移動して、効率よく結びつくことがわかりました。さらに、照射する光を動かしていくことでラジカル同士がぶつかるのを防ぎ、反応を続けることができるのです。

今後の展望

光重合は、自動車や電気機器の表面につかうコーティング、パッケージの印刷など様々な工業用途で使われている重要な技術です。この新技術によって、プラスチックやゴムなどの材料となるポリマーを作るために必要なエネルギーを90%も削減できるため、環境にも優しい製品作りが可能になります。

研究者のひとこと

この技術は他の様々なポリマーの合成にも適用できます。既存の生産プロセスを大きく変更することなく、光を動かして照射するというシンプルな手順を加えるだけで大きな効果を得られる、非常に汎用性にすぐれた方法です。今後、製造工程のエネルギーおよびコストの効率を大きく改善することが期待できます。

宍戸厚教授

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