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ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実現に向け、住宅に最適な規模の太陽光発電システムと蓄電池を容易に計算できるプログラムを開発

2024年10月1日 公開

カーボンニュートラルに向けた世界的な取り組みに貢献

どんな研究?

ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(net-Zero Energy House(略称ZEH))を知っていますか?ZEHとは、再生可能エネルギー等を利用することで、1年あたりに消費するエネルギー量が実質ゼロまたはマイナスになる住宅を指します。

現代における世界のエネルギー消費量のうち、住宅も大きな部分*を占めています。各住宅のエネルギ―消費量が最小化すれば、化石燃料からの脱却を目指すカーボンニュートラルの実現に向けて重要な役割を果たすと期待されています。そのためには、それぞれの住宅が自らの電力を生成し、自給自足できるようになることが非常に効果的といえるでしょう。それを可能にするひとつの方法が、太陽光発電システムを設置することです。

しかし、日射量は季節や天候によって変動しますし、発電が大きい時間帯と電力消費量のピークの時間帯は必ずしも一致しません。発電した電力を賢く使うためには発電したエネルギーを貯める蓄電池を設置する必要があります。

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住宅や住宅地で太陽光発電や蓄電池を導入しようとする際、常にある課題が発生します。その課題とは、太陽光パネルおよび蓄電池の、各住宅に最適な設備投資量を計算することです。しかし、各家庭のエネルギーの消費パターンはそれぞれ異なります。そのような不確実な要素のもと、それぞれの住民にとって最適なシステムの規模を計算することは難しく、適正以上の費用をかけてしまうと導入に伴う住民の経済的負担となるため、ZEH移行促進の大きな障壁とされてきました。
東京科学大学 (Science Tokyo) 工学院 システム制御系の畑中健志教授らの研究チームは、家庭用の太陽光パネルや蓄電池の最適な規模を簡単に算出できる新たな計算手法を考案しました。その際、各住宅が単独でエネルギーを生産するケースと、地域で蓄電池を共有するケースを考慮しています。

ここが重要

畑中教授らの研究チームは、提案した計算手法を日本のある地域の実データを用いて、134世帯のエネルギー消費量と太陽光発電量の検証を行いました。その結果、適切な電力価格を設定して設備を導入すると、各住宅の電力に関わる費用が平均で約35%削減、地域では蓄電池の共有に基づく導入費用が約40%の削減の可能性を実証し、少ない太陽光パネル面積で地域レベルでのZEHを達成できることを示しました。

今後の展望

畑中教授らの手法を利用すれば、さまざまな地域における太陽光パネルと蓄電池の最適な規模を容易に決定でき、適切な費用を算出することが可能になります。住宅地における再生可能エネルギーシステムの導入促進に大きく貢献する可能性が高まりました。これにより、住宅の電力消費におけるCO₂排出量を削減し、カーボンニュートラルへの世界的な取り組みに貢献できることが期待されます。

研究者のひとこと

太陽光パネルとバッテリーの最適な規模を知るために約2か月分のデータを基にした計算に最大14時間もかかることもありましたが、我々の開発した計算手法を使えば10秒足らずで計算でき、住民の判断材料に活用することができます。ZEHへの移行促進に向けて大きく前進できるようになったと言えるでしょう。また、この研究成果は文系の研究者と我々理系の研究者の協力によって得られたものです。文系と理系の垣根を超えることで、社会に新たな価値を生み出すことができます。

脱炭素社会実現を目指す新しい国民運動「デコ活」の一環として、カーボン・ニュートラルの実現に向けたネット・ゼロ・エネルギー・ハウスへの移行促進と社会実装実証を、環境省の委託を受けて実施しています。脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の愛称であり、二酸化炭素 (CO₂)を減らす(DE)脱炭素(Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む"デコ"と活動・生活を組み合わせた新しい言葉です。

畑中健志教授

注釈
*経済産業省資源エネルギー庁の2023年の調査(令和4年度エネルギーに関する年次報告エネルギー白書2023)によると、全世界でのエネルギー消費量のうち家庭を含む民生用が全体の約3分の1を占めています。

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