ちょうつがいのように動いて光る色がかわる分子で「力」を見る!

2025年10月7日 公開

力を光で可視化する新しい材料技術で社会を変える

どんな研究?

プラスチックのような高分子材料は、生活のあらゆる場面で使われています。しかし長く使ううちに劣化したり壊れたりすることもあります。壊れた後の変化は目で見えますが、壊れる前にどのくらいの力がかかり、内部で何が起きているのかを観察するのは難しい課題でした。

そこで活躍しそうな材料がメカノクロミック蛍光材料です。これは、力が加わると光る色や強さが変わる分子を組み込んだ材料で、材料の内部にかかっている力を直接「光る特性の変化」として検出することができます。これまでにも、色素を混ぜて発光の変化を利用する方法や、分子の一部が切れて光る仕組みが研究されてきましたが、どちらの方法も色の変化が分かりにくかったり、かんたんに元の状態に戻らないといった課題が残っていました。

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そんな中、東京科学大学(Science Tokyo)の相良剛光(さがら・よしみつ)准教授らの研究チームは、[2.2]パラシクロファンと呼ばれる特殊な分子の骨格を利用し課題を克服しました(図1)。[2.2]パラシクロファンは、まるで2つの机を棒で強くつないだような形をしていて、そこに2つ分子をつなげることができます。そうすると、2つの分子の間の距離は決まるのですが、蝶番のように働いて2つの分子の間の距離が変化することも許してくれます。この構造を土台に、高い発光効率を持つ色素を組み込むことで、これまで難しかった鮮やかな色変化を実現したのです。

図1:分子の“ちょうつがい”として働く[2.2]パラシクロファンの骨格―力を加えると開閉して、光の色が変わる仕組みのもとになる構造

ここが重要

今回の研究でつくられた分子に力が加わると、まるでちょうつがいのように動く[2,2]パラシクロファンに接続された2つの分子の距離が変わります。その結果、黄色っぽい光から青緑色の光へと、誰の目にもわかる鮮やかな色の変化が起こります。

しかも、この変化は力の大きさと正確に対応しており、光の色を調べるだけで材料にかかった力を測ることができます。さらに、この仕組みは繰り返し使えることも確認されました。
従来の研究では難しかった、「はっきりした色の変化」と「力を数値として測れること」を同時に実現したのが大きな成果です。

今後の展望

この研究は、私たちの社会のいろいろな場面で役立つ可能性を秘めています。その一例は、製造業やインフラの安全管理です。橋や飛行機の部品にこの仕組みを組み込んで、壊れる前に光の色で異常を検知するなど、未来の「自己診断する素材」や「ひずみセンサー」として役立つ新しいセンサー材料になります。

また、医療やバイオ分野では、体の中でかかる力を測るバイオマテリアルの開発にもつながる可能性があります。さらに、今回のちょうつがい構造を利用する方法はほかの蛍光分子にも応用できるため、新しい「力で光る」分子センサーのプラットフォームになることが期待されます。

研究者のひとこと

我々の日常ではたえず大小さまざまな力が発生しています。工作機械が出すような大きい力の評価法はすでにある程度確立していますが、非常に小さいpNオーダー(ピコニュートン=1兆分の1ニュートン程度)の力の評価は中々に難しいです。

われわれが今回開発した小さいちょうつがい分子は、そのような小さな力を光り方の変化として検出できます。このような小さな力を見る分子は、いろんな分野・産業での応用も期待できますので、これからもどんどん新しい分子を産み出していきたいと考えています。

(相良剛光:東京科学大学 物質理工学院 材料系 准教授/同 自律システム材料学研究センター(ASMat) 准教授)

相良剛光准教授

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