どんな研究?
私たちの眼球の白い部分、通称「白目」は眼球の外側を覆う膜であり「強膜」と呼ばれます。細かい層ごとの繊維が並び頑丈な膜を作ることで、眼球の形を保ち、眼球内の網膜や視神経などの神経組織を保護する重要な役割を果たしています。強膜の形状に異常が生じると失明にもつながることがわかっていますが、既存の方法では厚みの測定に留まり、生きているヒトの目(生体眼)の強膜の繊維構造を眼球の広い範囲まで調べることはできませんでした。
大学院医歯学総合研究科 眼科学分野の大野京子教授らの研究グループは、人間ドックや眼科クリニックで一般的な検査機器である強膜の厚さを測定できる光干渉断層計(OCT: Optical Coherence Tomography )を改良した画像診断技術「Polarization-sensitive OCT(PS-OCT)」を開発し、ヒトの目で初めて強膜の繊維構造を広範囲にわたって詳しく観察することに成功しました。今回の新技術は、強膜の主成分であるコラーゲン線維構造の特殊な性質を利用することで、各層の繊維構造を詳細に映し出し、正常から病的な状態に至るまでの微妙な変化を確認できるため、眼の形状異常によって引き起こされる神経への影響を未然に防ぐ治療法の開発にも貢献することが期待されています。

ここが重要
研究チームは、PS-OCTを用いて72人の患者さんの89の高度近視眼を分析し、ドーム状黄斑(DSM)と呼ばれる症状を持つ患者さんと持たない患者さんの強膜構造を比較しました。DSMは、網膜の本来あるべき場所から外側に膨らみ、高度近視眼患者に深刻な合併症をもたらします。分析の結果、DSMでは、内層の線維のみが黄斑部に凝集して厚くなり、外層の線維は薄くなっていることがわかりました。
今後の展望
ヒトの目の内部構造まで検査が可能になったことで、患者さんの強膜の層別の線維構造や役割の違いを可視化することができます。強膜の形状異常は失明にもつながるため、病態の病因解明や新規治療の確立につながると期待されます。
研究者のひとこと
PS-OCTを用いた研究は、眼疾患の理解と治療に対する新しい可能性を開くものです。私たちは、PS-OCTが研究および臨床で人々の目の健康に貢献することを期待しています。

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