がんの早期発見につながる新たな方法を開発

2025年1月14日 公開

尿中のマイクロRNAをナノワイヤで捕まえて、がんのサインを見つけ出す

どんな研究?

日本人の死亡原因で最も多い「がん」。しかし、がんは早期に発見できれば治る確率が高くなります。その早期発見の鍵として近年注目されているのが、マイクロRNAと呼ばれる非常に小さな遺伝物質です。マイクロRNAは、細胞や体の働きを制御する重要な役割を持っています。2024年のノーベル生理学・医学賞でその発見と遺伝子調節における役割が評価され、改めて注目されています。

がん細胞を含むすべての細胞は、エクソソームと呼ばれる直径40-200 nm(1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1)程度の微粒子を放出します。エクソソームは、細胞と細胞が情報をやりとりする時に情報伝達物質として体内で機能しますが、このエクソソームにはある種のマイクロRNAが含まれています。そのため、がん細胞が放出するエクソソームに含まれるマイクロRNAは、がんのサインであると考えられます。

また、がんに関するマイクロRNAは1種類だけではなく、複数の種類が組み合わさっていることも報告されています。このような組み合わせはマイクロRNAアンサンブルと呼ばれ、がん特有のアンサンブルを特定できれば、がん患者と健康な人を簡単に識別できるようになります。

エクソソームを網羅的に捕まえるデバイスの模式図:
デバイスはナノワイヤとマイクロ流体によって構成される。尿中のエクソソームを捕まえ、エクソソームの中のマイクロRNAを取り出すことができる。

これまでの研究では、採血した血液を使ってマイクロRNAアンサンブルを調べる方法が主流でした。一方、尿検査による検出方法は身体への負担がないものの、これまで報告された尿中マイクロRNAの種類が少なく、がんに関するアンサンブルの特定が難しいことが大きな壁となっていました。

そこで、生命理工学院の安井隆雄教授らの研究チームは、この課題を解決するために、尿中のエクソソームを網羅的に捕まえる新たな技術を開発しました。それが、ナノワイヤと呼ばれる1次元ナノ材料です。

ここが重要

安井教授らが開発したナノワイヤは、直径が数10-100 nm、長さが1-10 µm(1マイクロメートルは1ミリメートルの1,000分の1)のきわめて細い針状あるいはワイヤー状の構造体です。このナノワイヤは、クーロン力(2つの荷電粒子間に働く力)と水素結合(2つの原子の間に水素原子が入ってできる結合)を利用して、エクソソームを網羅的に捕まえることができます。

このナノワイヤを使って尿中のマイクロRNAの種類を調べたところ、その数は血液中と同程度の2,000種類以上であることが分かりました。さらに、尿中のがん関連マイクロRNAを機械学習で解析し、がん患者と非がん患者を識別するマイクロRNAアンサンブルを構築しました。そして、そのアンサンブルを使って、学習に用いなかったがん患者と非がん患者の尿中マイクロRNAパターンを識別したところ、かなり高い確率でがん患者と非がん患者を識別できることが分かりました。また、構築した尿中マイクロRNAアンサンブルを用い、早期がん患者(ステージI)の識別を行なったところ、かなり高い確率で早期がん患者(ステージI)を識別することができました。

今後の展望

今回の研究で、がんの種類(肺がん・脳腫瘍)ごとにマイクロRNAアンサンブルが異なることが分かりました。今後は、これ以外にも、肺がん・大腸がん・子宮内膜がん・腎がん・白血病・リンパ腫・膵がん・前立腺がん・胃がん・尿路上皮がん、などのがん識別を可能にするマイクロDNAアンサンブルの構築を実施しています。尿検査によるがんの早期発見が可能になれば、誰もが安心して健康を守れる社会の実現に大きく貢献できると考えられます。

研究者のひとこと

今回わたしたちが開発した新たな手法により、採血する必要がなく、体に負担のない尿検査でがんを高精度に早期発見できる可能性が広がりました。今後も技術を進化させ、がんの早期発見を確実なものにしていきたいと考えています。

安井隆雄教授

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