形を変えて働きを切り替える「シーソータンパク質」とは

2026年2月20日 公開

光る・働く、2つの顔に「変身」して働きを切り替える人工タンパク質

どんな研究?

子どもの頃、公園で遊んだシーソーを思い出してみてください。片方が上がれば、もう片方が下がる。このシーソーのように、1つの分子にもかかわらず、2つの役割が切り替わって働く分子はできないだろうか。そんな発想から生まれたのが、新しいタイプの人工タンパク質である「シーソータンパク質」です。

タンパク質は、アミノ酸がつながってできた鎖が折りたたまれてできています。そして、この折りたたまれた形によって働きが決まります。20世紀半ばに提唱された「アンフィンセンのドグマ」では、アミノ酸配列が決まれば折りたたみ方は一つに決まると考えられてきました。しかし、その後の研究で、同じ配列でも状況に応じて別の折りたたみ方になる「カメレオン配列」、さらには自然界で役割に応じて折りたたみ方が切り替わるタンパク質も見つかっています。

Aleksei Ignatov/Shutterstock.com

こうした様々な例をヒントに、東京科学大学(Science Tokyo)の田口英樹(たぐち・ひでき)教授らの研究チームは、まったく異なる2つの機能を1本のタンパク質の中で切り替えられないだろうかと考え、この問いとともに研究を始動しました。

ここが重要

田口教授らが生み出したのは、「シーソータンパク質」と名付けた新しい人工タンパク質です。蛍光という分かりやすい特徴をもつタンパク質と、生命活動に欠かせない酵素タンパク質を、構造が重なり合うように一体化させたのです。

このシーソータンパク質は、光る状態と酵素として働く状態の、どちらか一方だけが機能するように設計されています。同時に二つの状態が現れることはありません。しかも、その切り替えは、アミノ酸1個の変化や薬剤分子との結合、pHや塩の濃さといった条件に応じて自在に制御できます。まさに、片方が持ち上がれば、もう片方は必ず下がるシーソーのような仕組みを実現した人工タンパク質と言えます。研究グループは、さらに高速原子間力顕微鏡により、1分子レベルで形が変わる瞬間を直接見ることにも成功しました。

今後の展望

この成果は、刺激に応じてタンパク質の働きそのものを切り替えられる次世代の人工タンパク質への道を開きます。医療用センサーやドラッグデリバリー、さらには合成生物学など、応用先は多岐にわたります。
実際、人工的にタンパク質を設計する研究は世界的に注目を集めており、2024年のノーベル化学賞(詳しくは関連記事「2024年ノーベル化学賞を読み解く」参照)でも「デザインタンパク質」が重要なテーマとして取り上げられました。
また、細胞の中で光や酵素活性を目印に進化実験ができるため、「進化をデザインする分子工学」にもつながります。将来は、自然界には存在しない新機能を切り替えるタンパク質をゼロから設計できるかもしれません。

研究者のひとこと

私が長年行っている研究を一言で言えば、タンパク質研究の大前提である「アンフィンセンのドグマ」へのチャレンジを通して、タンパク質の世界の新たな一面を見ていくことです。1つのアミノ酸配列から複数の立体構造を取りうる「変身」タンパク質をデザインできたことで、タンパク質のもつポテンシャルをさらに拡げることができたと考えています。また、ここで創ったタンパク質を「シーソー」と名付けたことで、専門家だけでなく、より広くタンパク質研究の面白さを知ってもらえていると実感しています。この研究を野島達也(のじま・たつや)研究員と一緒に進めた生命理工学院博士後期課程2年の池田刀麻(いけだ・とうま)さんは日本蛋白質科学会の2025年度年会で若手奨励賞優秀賞を受賞しました。学生在学中に優秀賞をもらうのは珍しいことからも、この研究成果の反響の大きさを示していると思います。

(田口英樹:東京科学大学 総合研究院 細胞制御工学研究センター 教授)

田口英樹教授

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